手術の可能性がある緊急患者への剃毛は日常的に行われている行為ではあるが、普通はここまで徹底的にやることはない。
これだけ綺麗にするには性器を開き、ビラを摘み、その内部付近までカミソリを走らせなくてはならないからだ。
この行為そのものに意味はないし、時間もかかる。
なによりも女性が最も他人に触られたくない部分をいたずらに暴く行為そのものに、医者と言えども抵抗感があるからだ。
だが、それをあえてやった人物がいる。しかもこんな若い患者にだ。
看護婦はこの処理をした病院関係者の下心を感じうすら笑いを浮かべる。
「あのー まだ終わりませんか」
憮然とした表情をしながら優奈は文句を言う。
一秒でも早く終って欲しいのに、看護婦は常にもたもたとした行動しか見せない
いくら我慢するとはいえ限度があった。
「あら、ごめんなさいね。それじゃ下も拭いておきますね」
看護婦は自分の指先にタオルを巻きつけながら話す。
表情は穏やかで先ほどの優奈の態度に怒っている感じは無かったが。
「下って、ひぃ」
突然、股の間にタオルが入れられる。
指に巻きつけたタオルがベットとお尻に挟まれた尻肉をかき分け、肛門を目指して突き進む。
優奈は排泄器官を触られる恐怖と羞恥に身をよじった。
手のこぶしを硬く握りしめ、体を硬直させる。
「もうちょっと我慢してくださいね」
まったく面倒くさい患者と言わんばかりの看護婦は、彼女の嫌がり方も無視し、更に奥へと手を入れる。
「あぅ」
優奈の小さな顔がピクリと跳ね上がり、額にあぶら汗が滲み出る。
ついに濡れタオルが、彼女の肛門をとらえたのだ。
看護婦は肛門の感触を確かめながら皺周りを円を書くように拭いていく。
(クッ)
その間、優奈は顔を真っ赤にし目尻に涙を貯めながら、与えられる恥辱に必死に堪えていた。
(なぜこんな目に)
彼女は体ふきの中でも肛門を触られるのが一番嫌だった。
初めてやられた時はショックでしばらく泣き叫んでしまったほどだ。
泣きながら抗議する優奈に対して看護婦は『今に慣れるわよ』と涼しい顔で言った。
せめて一日何度も全裸にするのは止めて欲しいと言った時も、『今に慣れるわよ』で終ってしまった。
その時、優奈は現状を理解した。
ここは医学や効率のために患者の羞恥心は無視する病院。
一人の患者が文句を言ったからって変わるはずがない。言うだけ無駄なのだ。
今、自分に出来ることは一日でも早く治し、一日でも早く退院することしかないと。
「はい、おしまい」
気がつけば足もふきおわり、看護婦は何もなかったようにパジャマを着せる。
体が隠されると、優奈は安堵の表情を見せた。
体の線が見えそうなほど薄い布切れ一枚のパジャマ。下着すらつけていなくても、やはり全裸とはまるで違う。
「ありがとうございます」
優奈は素直にお礼を言った。いくら対応に不満があるとはいえ、世話をしてくれた人に対して礼も言わないなんてありえない。
これは彼女の持ち前の良さであった。
「そりゃどうも。今日は初研修の日だから念入りに体を拭いておいたわよ。初めて女の裸を見る人も多いんだから綺麗にしておかないとね。優奈さんみたいな若い女の子は役目が多くて羨ましいわ」
看護婦は冗談とも本気とも付かない声を出す。
その台詞には若さへの嫉妬と明確な悪意が含まれていたが、優奈はそのことに気がつくことはなかった。
看護婦が病室から出て行く。
「?」
優奈は看護婦の台詞を聞いて少し首を傾げる。なんのことだがさっぱりわからない。
だが、それは残酷な現実。
この病院に入院する患者の義務とも言える日常の一つであった。